国井栄之氏インタビューで紐解く〈PLUME X RUN〉の秘密
国井栄之(クニイシゲユキ)/〈mita sneakers〉クリエイティブディレクター

東京・上野の老舗スニーカーセレクトショップとして、日本のみならず世界中からも大きな注目を集めている〈mita sneakers〉。
これまで同店には〈le coq sportif〉のスニーカーディレクションを数多く手がけていただいたが、今回新たな展開としてコラボレーションモデル〈PLUME X RUN〉のリリースが決定。
〈mita sneakers〉のクリエイティブディレクターである国井栄之氏に、今回のコラボレーションの経緯やプロジェクトに込めた想い、さらには、ネット社会における実店舗の存在意義や今後のスニーカーシーンについても話を伺った。

part.01

「日本の〈le coq sportif〉」の魅力を世界に

-国井氏は〈le coq sportif〉のHPへの登場は今回が初となりますが、様々なメーカーとのコラボを手がけてきた国井氏ならではの視点でお話を伺えればと思います。
 まずは〈le coq sportif〉というブランドに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?

国井氏:最初に思い浮かぶのは『ヨーロッパのブランド』ですね。フットボール、テニス、自転車のロードレースなど、ヨーロッパを起点とするスポーツで〈le coq sportif〉のロゴを見る機会が多かったので。それとここ数年では、日本企画とグローバル企画が刺激しあってブランドの世界観が広がってる印象ですね。

-その日本企画というのが、様々な取り組みのきっかけとなるモデルですね。

国井氏:そうです。最初のきっかけは、日本企画として復刻した〈EUREKA〉でした。〈le coq sportif〉からは以前から『何かしらの取り組みを』という話を頂いてましたが、それまで形にはなっていませんでした。〈EUREKA〉が出てきた時に興味が湧いて自分で履きだして、純粋に『これを触ってみたい』と思ったことが始まりです。

-〈EUREKA〉はなぜコラボレーションではなくディレクションだったんでしょうか?

国井氏:当時は〈le coq sportif〉のグローバルと日本のリレーションシップが完璧にはとれていなくて、その状況でコラボレートモデルをローンチしてもローカルだけで完結してしまう。それはインターネットやSNSでリアルタイムに世界と繋がっている現代のスニーカーシーンにとって意味が無いと感じたんです。
更に当時の状況では日本国内でのブランドイメージ再構築とキーアカウントとのリレーションシップを高める必要があり、短期集中のコラボレーションよりも中長期的に捉えたインラインの方が先決だろうということでディレクションから始まりました。

-そのディレクションモデルの評価の蓄積もあり、グローバルと日本のリレーションシップがとれるようになりました。

国井氏:はい。そして次の段階として、設計から携わらせて頂いた〈LCS R 921〉のグローバルコラボレーションへと発展しました。
その次のステージを考えたときに、インラインモデルとコラボレートモデルが同時連動したことがやりたいなと思って推し進めたのが、〈PLUME X 〉シリーズです。

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part.02

必要なのは、オーバースペックにならない実用的な機能性

-今回の〈PLUME X RUN〉の特徴は、コート系シューズ〈PLUME X〉のアッパーとランニングシューズ〈LCS R 921〉のソールユニットが融合したスタイルだと思いますが、このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

国井氏:〈le coq sportif〉のスポーツカテゴリーについて考えたときに、僕の中で大きな割合を占めていたのがフットボール、テニス、ランニングの3種。このアイコニックな3カテゴリーをマッシュアップして世の中に新しい提案ができないかと〈le coq sportif〉のジャパンチームに伝えて具現化して貰ったアイデアです。


〈PLUME X RUN〉のソールユニットのベースになった〈LCS R 921〉

-そのアイデアを実現するために思い描いたイメージはどのようなものでしたか?

国井氏:タウンユースの中で新たな用途・目的・スタイリングに使ってもらえるようなものを、というイメージです。僕の周りの友人は仕事を終えた夜の時間帯にフットサルをすることが多いんですが、彼らはフットサル場への移動手段としてスケートボードやピストに乗り、会場でボールを蹴っている。日常生活にスポーツ的要素が溶け込んでいるような今のライフスタイルにすっと差し出せる汎用性のあるものを作りたかったというのが着想の源です。

-実用性を追求したモデルということでしょうか。

国井氏:そもそも僕はスニーカーをあまりファッション的な視点では見ていなくて、やっぱり『履いてこそ』って思っています。特にスポーツブランドからリリースするなら、まず実用性がないと意味がないんじゃないかと。
ただ、スポーツにおける実用性のある現場、つまり実際のフィールドに対応した性能というのはタウンユース視点からするとオーバースペックですよね。なので、日常のスポーツ的場面でパフォーマンスを発揮できるような実用的な機能を集約しています。

-完成したモデルを実際に見てどのような印象を受けましたか?

国井氏:いい意味でも悪い意味でも、シューズの作り方として平均点、というものが多いじゃないですか。ロゴを取り払ってしまったらどのブランドのものか分からない。そういうものがありふれている中で、〈le coq sportif〉としてのアイデンティティやオリジナリティを体現できたのは良かったと思います。

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part.03

大事なのは“意味”があるかどうか

-〈PLUME X RUN〉に限らず、コラボレーションするときに考えていることは?

国井氏:一言で言えば、その時にやる意味・意義があるかどうかですね。僕らの本来の仕事はコラボレーションを作ったり売ったりではなく、各メーカーさんが作ってくれるインラインを売ること。インラインに目を向けてもらうための“旗振り”としての存在がコラボレーションだと思っています。今回はコラボレーションとインラインのディレクションの両方に携わっていますが、これは今後組まれている〈PLUME〉シリーズの汎用性をもっと高めて一般化するプランの『最初のフェーズ』としての意味があるからです。


〈PLUME X RUN〉のアッパーのベースとなった〈PLUME X〉

-その時にやる意味・意義というのは、その時のトレンドとは別物でしょうか?

国井氏:トレンドに合わせるというのは、開発期間的に絶対に無理です。新規開発にかかる期間は1年半から2年弱。カラーバリエーションとして企画しても今は1年くらいはかかります。スニーカーはどのジャンルよりも時間がかかるので、思ったものをポーンとすぐには出せないです。

-開発にそれだけ時間がかかるとファッションの流れには追い付けないですね。

国井氏:あと、そもそもファッションのトレンドを気にしたことがないというのもあります。ファッションコンシャスな人たちは僕らの想像を遥かに超えたスタイリングや履きこなしをしてくれるので、わざわざそこに迎合する必要が無いなと思って。逆に、その自由な履きこなしから刺激をもらって次の企画に反映させたりしています。

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part.04

“靴を買う”ということの当たり前の楽しさ

-〈mita sneakers〉にはインターネット店舗もありますが、実店舗の存在も重要視されていると感じます。販売・購入だけならインターネットで済む世の中で、 実際にお店に足を運んでもらう意味はどう考えていますか?

国井氏:インターネットの場合、例えばブランド名で検索するとアパレルからシューズから色んな情報が出てきてしまう。便利ですけど、知識が無いと目的のものを探すのは大変だと思います。そんな予備知識がなくても、自分の直感に響くものを選んでもらえる場所が実店舗かなと思います。

-知識が欲しい時にお店のスタッフにすぐ聞けるというのも実店舗のメリットですね。

国井氏:靴屋というと値札を強調しているところも多いですが、〈mita sneakers〉ではスニーカーを手にとった後に値札が見えるようなディスプレイになっています。
まず自分の感性で靴を選んでもらう。次に手にとってディテールを確認してもらう。そして自分の思った価格に見合うか値札で確認してもらう。その後に試し履きしてもらう。これら全てをクリアするようならレジで精算。靴を買うときの当たり前の動線ができているので、その当たり前の楽しさを体感していただきたいです。

-確かに、実際に手に取ってディテールを確認するのも実店舗でしかできない靴を買う醍醐味のひとつですね。

国井氏:そうですね。それに、いわゆるスニーカーセレクトショップと呼ばれるお店の中では〈mita sneakers〉の商品数は多い方だと思います。お店に来たけど目的のものが売り切れていて無い、というときに『本当は別のものを探してたんだけど、あのお店に行ったらこんな知らないものがあった』と、逆にもっと満足して帰ってもらうというのがベストだと思っています。

-ちなみに、毎週数多くのスニーカーがリリースされていますが、国井氏が考える「良いスニーカー」とは?

国井氏:良い悪いでは測るのが難しいですが、『好きなスニーカー』ということで言えば、機能的な美しさがあるものが好きです。僕はガジェットが好きなんですが、それは、意味があってその形になっているから。スニーカーも同じく、機能や意味があってこういうデザインになりました、というのが美しいと感じますね。基本的には装飾美より機能美が好きです。

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part.05

これからのスニーカーシーンに提案する企画も進行中

-スニーカー業界の今後のトレンドはどのようになると予想していますか?

国井氏:最近はクッション性や軽量性といった部分が見直されて、新しい機能の追求が注目を集めています。また、これまでモノトーン一辺倒だった中で特徴的な配色のスニーカーも戻って来ていて、見た目のルックスはチャンキーなシルエットのものへ流れているように感じます。ただしもちろんいずれ反動はあるでしょうし、今後のトレンドの一極集中は無いかと思っています。

-現在のスニーカーシーンにおいて〈le coq sportif〉はどのような立ち位置にいると思われますか?

国井氏:もともとスニーカーの世界はNBA だったり、スケートカルチャーだったり、ヒップホップカルチャーだったりと、アメリカから入ってくる情報ですべて完結していました。でも今は、ブランドのルーツがドイツであるとか北欧であるとかというように、お膝元というのが再フォーカスされてきています。
ただ正直に言うと、その中でフランスの〈le coq sportif〉というブランドは少し弱い。スポーツの世界ではイメージがあるものの、少し埋もれているなという印象です。そこで『〈le coq sportif〉はこんなこともやってたんですよ』という、懐の深さを伝えるべき時期がやってくるのかなと思います。

-〈le coq sportif〉の今までの歴史やスタイルをアピールするべきだと?

国井氏:そうですね。でもそれは単なる復刻で実現すべきだとは思いません。クラシカルなストーリーを持つアッパーでヘリテージ性を語り、皆の知らない〈le coq sportif〉をもう1回きちんと表に出す。それでいて、内には最新のテクノロジーを秘めさせて、スポーツブランドとしてのアイデンティティーはしっかり入れ込み、なおかつそのテクノロジーを誇張しない。そのあたりのバランスを再チューニングする事で、新しい次元に進めると考えています。

-テクノロジーは誇張しないほうが良いのでしょうか?

国井氏:今はスポーツとファッションがよく結びついている時代感なので機能がビジブル化している方がいいと思います。でもユーザーにとって、機能がビジブル化されているほうが刺激的に見えるタイミングもあれば、メーカーの単なるエゴに見えるタイミングもあります。そして、作る側としては今後は後者へ流れていくと感じています。
なので、そういった今後の傾向に合わせたチューニングを〈le coq sportif〉でも表現できればいいと思っていて。今からすでに動いているので、乞うご期待。という感じですね。

-最後になりますが、スニーカーの選び方について読者にひとことお願いします。

国井氏:価値観はひとつじゃないので自由に楽しんでもらえたらと思います。自分の価値観で物を選んだほうがかっこいいし、本当のスニーカーファンだと思います。答えや正解は必ずひとつではなく十人十色だと思いますし、自己解釈こそが自身の正解だと思うので。

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